2007年12月06日

藍空

 細く紡がれたより糸を、左右から強く引いてぴんと張る。
 少しずつ絡まりが崩されて、糸になる前に戻っていく。
 じりじり、じりじり。
 責め苦にも似た緊張感。


 冬の陽はとっとと身を隠してしまう。
 まだ夕方といえる時刻なのにとっぷり暗い世界。闇色のコップが夜にこぼされてしまった。
 明るくても怖い。暗いともっと怖い。そうやって外を見ているのも、怖い。
 外を一人で歩くのはもっと厭だ。絶対厭だ。怖い。
 後押しする恐怖で、適当につけられた薄いカーテンを力任せに引いて夜との境界線を創った。
 物語に怯える幼子のようだ。――不愉快。


 広くない。狭くない。ぬるい温度。冷たい風。

 自分の顔を鏡で見て確認することすら覚束ない状態で、直人さんの結社には行けない。
 【Crow ver.】――閉じた空間。
 見えないところが見えて、見えるところが見えない場所。
 だからここに居る。
 本当は、此処にも居たくない。

 今日は直人さんが用事があって、まだ帰れないから。
 此処に送ってもらって、貰った漆黒のギターを抱えてる。
 覚えたコードも、買った譜面も、指にのらない。
 少しイラついた。

 がちゃり。無遠慮なドアの音。

 認識すると同時に鼓動が跳ね上がる。
 その向こうにあるのは見知った顔であると、知っているのに。
 でも裏切られることなく見知った顔だったから、少しほっとした。
 どくどくと大きな心音が耳障り。
 久我ちゃん、来てたの?と珍しそうに言われた。
 晴。ギター馬鹿の野良猫。
 適当に肯定したら、返って来たのは気のない生返事だった。

「喧嘩中〜?若いねぇ〜♪」
「そんなんじゃない」

 軽く拳を当てて抗議すると、楽しそうに笑ってた。
 当たってるのかもしれない。
 より――となるように、と望んでいた筈なのに、気付けば満身創痍にも似た気分で。
 何のせいといえば、俺のせい。
 あれもこれもと依存している俺のせい。
 嗅げないのは怖い。都合の悪いことは忘れていた。それだけで、多分わかってた。
 檻の中に安堵。それでも世界がゆがんでる。わめき散らす前に檻は揺り籠になる。
 目を閉じたら眩暈も消える。

「猫に」

 何?

「猫になってみりゃいいじゃん、折角なんだから」

 黒猫かなー、なんて呑気な声に面食らった。
posted by 久我 at 20:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語
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