2007年12月06日

白閃

 できるものと引き換えに、できないものができるようになる。
 できるものができなくなって。
 できなかったことが、できるようになる。

 言い方を変えて、何度か頭で反芻した。
 要するに、嗅げなくなった。でも猫になれる。

 ジョブチェンジ前には、度々話題に出して笑っていたことだった。
 俺が、猫に変身する。
 でも猫の生態とか、生活とか、さっぱり知らない。だから変身できても変身しない。
 そうやって笑ってた。

「なってみなよ、真部っちみたいにごろにゃーんってさ」

 目の前でにんまり笑う晴。でも俺はまだよくわからない。
 わかってるけど、わからない。
 わからない振りをしてるわけじゃない。
 ……何かを言い聞かせてる自分に気付く。

「ならないのー?見てみたいなー」

 見てみたいと言われても困る。
 困るというか…困る。
 ……なんで、困るんだろう。

「ちょっと聞いてるの、久我ちゃんー!」
「うわ、近っ」

 我に返ると晴の顔が視界いっぱいに広がっていて、思わず反射的に後ずさった。
 ソファの後ろにはカーテン越しに窓。
 後頭部に冷たい空気が触れて、思わず顧みた。
 真っ暗に塗り潰された外に、カーテンの隙間から覗かれた。

「もしかして、なり方わからないとか?」

 ムッとした。
 確かに未経験だけど、わからないわけじゃないはず。
 嗅いだ時と同じように…きっと自然にできるはず。

「どうなの、そこんとこ」
「……わからないけど、…多分できる。…けど」
「けど?」

 けど。
 それは多分決別。
 ……何との?

「…え〜、やっぱわかんねーんじゃねーのぉ?」

 にやぁっと笑みを深められて、さらにムッとした。
 やって見せれば満足か。満足だな。
 
「……わかる」



「おっ、可愛いじゃーん♪」

 ひょいと持ち上げられて、俺の視界はさらに晴でいっぱいになった。
 呼吸をするように、視点が変わっていた。
 どうだ、できるだろう。
 一言は聞き慣れない音になった。

 ……猫、に。なった。なれた。
 抱えていた喪失感。そこに入り込む充足感。
 魔弾術士になったんだ。

「久我ちゃんこの方が可愛いんじゃない?」

 …お前は一言余計だ。
 爪も自然と出せたから、そのまま鼻頭を引っかいてやった。
 礼も、少しだけ込めて。
posted by 久我 at 21:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語
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